惑星間不定期通信

小説を書いています。本や映画の感想やその他なども書きます。

メキシコ旅行記 十日目「人の名前かと思っていた」

 

 火曜日。昨夜の雷のせいかネットが使えなくなっていた。

 今日の朝食は研究所の食堂で食べることになっていた。昨日、エルネストが「申請をすると食堂なら朝食がタダになるんだ。俺が申請しておくよ」と話していたのである。
 だが、実際に食堂に行ってみると、きちんと食事代を請求された。三十七ペソなので二百円くらい。メヒカーナというトマトと卵を炒めたシンプルな料理を食す。味はいつものカフェのほうが良い。

 今日はほとんど仕事をしなかった。僕のパソコンでは実験に使うプログラムがコンパイルできないせいである。なので既存のプログラムのデバッグをしていた。

 昼過ぎ頃に観測装置の治具を作るためにブラックスミスが来た。僕はこのブラックスミスというのは『ブラック・スミス』という人名だと思っていたのだが、もともとは鍛冶屋を意味する言葉で金属加工業を営む人の総称のことだった。確かに、ミリタリー系のゲームなどにガンスミスという役職が出てきたりするが、それの何でも屋的なものらしい。ブラックスミスは三十代くらいのメガネをかけた痩せたメキシコ人で、若い助手を連れてきていた。その助手がやたらと僕のほうをちらちらと見るので困惑する。理由は分からない。

 昼食は再び食堂に行き、ジャガイモとズッキーニが入ったコンソメスープとピラフとほうれん草を鶏肉で包んだもののトマト煮を食べる。スープは薄味だ。メキシコで薄味の食べ物は初めてなのではないか。メキシコ人にとっては健康食のようなものなのかもしれない。エルネストたちは特に何の感想もなさそうに食べていたが。

 昼食後も仕事をしているんだかしていないんだか分からないような感じで早々にホテルから帰った。

 ホテルに帰るとネットが復活しており、日本の大学事務から「大学構内に猿が出現したので気をつけるように」という旨のメールが届いていた。

 僕の通う大学は住宅街の中に存在しているが、農学部の方は深い森に面している。そのためタヌキやイタチなどの野生動物が出没することはよくあるけれど、猿は初めてである。本当に街中にある大学だろうか。それにしても、こちらはアサルトライフル武装するような国で生活しているというのに、日本は呑気そうで羨ましい。

 夕食は広場に面したステーキ屋へ行く。薄暗い店内はそれなりに雰囲気があるが、フィレステーキはおよそ六百円と非常にリーズナブルである。しかも味も良かった。日本で同じものを食べようと思ったら三千円くらいはしそうである。ビールのお供にモデロ・ビールを飲む。最高である。

f:id:daizu300:20120819201453j:plain

広場にはいくつもレストランが同じ建物の中に連なっており、テラスにテーブルが置かれている。