惑星間不定期通信

小説を書いています。本や映画の感想やその他なども書きます。

誰にも求められていないことを語ろう、Nizi Projectについて

(パフォーマンスを見終えて)

J.Y.Park「踊っている時ダンサーみたいです」

花橋梨緒「(誇らしげに)はい、ずっと小学校2年生から今まで8年間、本気でダンスをしてきました」

J.Y.Park「僕の話は褒め言葉ではありません

(梨緒の顔から笑みが消える)

J.Y.Park「歌手はダンサーのように見えてはいけません。歌手は歌手として見えなければいけません。ダンサーと歌手は違う職業です。今踊っていた時、まず一つ目、僕と心を通わせようとしない

花橋梨緒「…...はい」

J.Y.Park「見る人を説得しようとする努力も見えないし、自分が上手く踊ることだけを考えている

花橋梨緒「…...」

J.Y.Park「繋がっているこの紐を離さないまま踊るべきなのに”私は踊っているから見る見ないはどうぞご自由に”という印象を受けました」

 (参加者全員固唾を呑んでJ.Y.Parkの言葉を聴いている)

J.Y.Park「歌とダンスは見てくれる人のためにやることであり”自分”のためにやることではないからです」

 

誰も求められていないことを再び語ろうと思います。前回はこちら。

さて、Nizi Projectである。

前回は革靴で、今回はもっと需要が無い記事になりそうな気がするけれど、誰にも求められていないことを語るという目的なので構いません。

Nizi Project(虹プロ)は、TWICEなどを擁する韓国の大手事務所であるJYPエンターテイメントと日本のソニーミュージックによる、グローバルガールズグループを作る共同プロジェクトである。

日本8都市、アメリカ2都市にて1万人を超える応募者によるグローバルオーディションを経て、26人の選抜者による4泊5日の東京合宿を実施し、さらに14人の選抜者による半年の韓国合宿の末にデビューするメンバーを決定するという過酷な*1サバイバル・プロジェクトだ。

 ぼくは虹プロにハマってJYP事務所の他のアーティストからK-POPを聴き始めたので韓国の音楽事情はほとんど詳しくない。また、日本のアイドルについてもこれまで一切聴いてこなかった。なのでNizi Project、ひいては番組からデビューしたNiziuが過去のアイドルやオーディション番組と比較してどのような位置付けなのかを語ることはできない。あくまでも門外漢が初めて触れた感想だと思ってご容赦いただきたい。

Nizi ProjectはYoutubeで無料で見れる。ただしカットされているシーンが多いのでHuluでの視聴がオススメ

 

虹プロにハマった理由 〜または私は如何にしてアイドルを嫌うのをやめてNizi Projectを愛するようになったか〜

きっかけとしては、妻が先にハマり居間で流れている映像を横目で見ているうちにその魅力にずぶずぶとのめり込んでいったのが始まりである。今では妻よりも多く見返すほどになってしまった。

上に書いたように、ぼくはこれまでアイドルについて一切聴いてこなかった。ぼくが小学生の頃にモーニング娘。が大流行し、大学生になった頃にはAKB48を始めとした秋元康プロデュースの多人数アイドルグループの全盛期となっていた。

しかし、ぼくは子どもの頃からアイドルというものが好きになれなかった。そもそも女性の多人数集団になんとなく苦手意識があった*2。ぼくが好きだったのは宇多田ヒカルaikoなどの女性シンガーソングライターであり、複数人数の女性ユニットには基本的に興味がなかった。

 ぼくが女性タレントを好きになるのは主に格好よさとか、ストイックさにリスペクトを感じるときである。なのでアイドルたちの愛嬌や可愛さよりも、シンガーソングライターやドラマ・映画女優に憧れてきた。ぼくは今も昔も坂本真綾さんの大ファンだけど、それも彼女の仕事に対するストイックさや綴る文章に惹かれたところにある。

アイドルグループのオーディション番組とはいえ、虹プロについても好きになった理由は同じである。番組に出ている候補生たちはみんなストイックに夢に向けて努力し切磋琢磨する。プロデューサであるJ.Y.Park氏に厳しい言葉で否定されて涙を流しても、次のステージで挽回するためにまた努力する。その姿に感動し、リスペクトを抱いたのだ。

そもそも10代の中学生や高校生たちが、半年以上もオーディションにすべてをかけて、さらには学校をやめるか休学して、外国の言葉も通じないような環境下で叶うかどうかわからない夢のために四六時中努力し続けるなんて、想像しただけでぞっとしてしまう。モラトリアムに浸かりながら甘い夢を見続けてきた自分にとっては到底なし得ないことであり、尊敬するしかない。

 

Nizi Projectとはなにか、あるいはJ.Y.Parkとは何者か?

Nizi Projectがどのようなものか、改めて説明しておきたい。

評価軸としてはボーカル・ダンス・スター性・人柄の4つであり、各審査で一定以上の評価を得た者に対応したNiziキューブが与えられる。4つすべてのキューブを得たものが次のステージに進み、デビューすることができる。*3

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Niziキューブ

すべての評価をプロデューサーであるJ.Y.Parkが行い、パフォーマンスのあとに厳しくも冷静で的確な講評を行う。冒頭の引用は実際にパフォーマンスのあとに行われたやり取りである。

そもそもJ.Y.Parkとは何者なのだろうか?

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J.Y.Park。この服は私物なのだろうか

J.Y.ParkとはJYPエンターテイメントのCEOでありTWICEなど世界的ユニットを手掛けたプロデューサーであり、現役のシンガーソングライターでもある。チャート1位を獲得した曲は50を超え、90年代から現在まで第一線を退くことなく活動し続けており、そのことを歌詞にまでして自慢してさえいる。

 

www.youtube.com

90年代 2000年代 2010年代も
イケてるね
イケてるね
イケてるね

(中略)

君らが好きな
オッパ(おにいさん)たちとはかなり違うだろ
オッパたちが生まれる前に
デビューしたけど
オッパ達の間で
未だに賞までもらうよ俺は

韓国では「餅の好きなゴリラ」という意味で『トッゴ』という愛称で呼ばれており、日本でも『餅ゴリ』と呼ばれている。本人公認のあだ名だというから懐の大きい人間である。それにしてもこんなHUNTER×HUNTERゴレイヌとレイザーを足して2で割ったようなイカつい男がそれほどまでのヒットメイカーであるとはにわかに信じがたい。

 

ハンターハンターキャラ考察 ゴレイヌは弱くない - アナブレ

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ゴレイヌとレイザー。足して2で割ってください

J.Y.Parkがヒットメイカーであり一流のダンス歌手であり続けているのは、才能に恵まれているとか幸運だからではなく、恐ろしいまでの日々の努力の賜物によるものである。

韓国ではイケメンでなければダンス歌手としては売れないと言われており、J.Y.Parkも学生時代にデビューしたものの売れずに振るわなかった。しかし、J.Y.Parkはそこで夢を諦めず、バックダンサーとして再出発しつつ有名作曲家に師事して音楽理論を徹底的に学び直し、見事人気歌手として返り咲いた。

確固たる地位を築いた現在でも朝の2時間のジム・トレーニングとボイストレーニングを欠かさず、ライブでは何十曲も踊りながら口パク無しで歌い切る超人的なパフォーマンスを魅せる。社長業やプロデュース業の合間に曲を作り、自身のライブに向けたダンスや歌の練習もするなんて、どうやって時間を作っているのか全くもって信じられない。さらに学力も高く、韓国のトップ私立大学を卒業、帰国子女で英語も話すことができ、そのうえNizi Projectのために日本語まで習得したというから驚嘆するしかない。

 そんなJ.Y.Parkは自らの事務所の所属アーティストたちにも高い水準を求める。Nizi Projectにおける審査においてもそれは変わらない。厳しく的確な講評はすべて本人の実践してきた理論に基づくものだ。冒頭に引用したやり取りもその一部である。

 

Nizi Projectをどう見るか?

J.Y.Parkは歌とダンスはコミュニケーションだと繰り返し述べている。一方的にテクニックを見せつけるのではなく、観客のひとりひとりに「自分のためにパフォーマンスをしてくれている」と思わせなければいけない、とJ.Y.Parkは言う。彼の理論を聴いたあとに、プロの歌手とアマチュアである候補者たちのパフォーマンスを見くらべてみると、なるほど確かにそのとおりだなと感心してしまう。

1万人を超える応募者のなかで実際に番組でフィーチャーされるのは東京合宿に残った26人である。彼女たちはいずれもダンススクールに長年通っていたり、芸能事務所の練習生として活動していた経験を持っているのがほとんどである。しかし彼女たちの経験と自信はJ.Y.Parkの講評によって打ち砕かれていく。そして周囲のレベル差に圧倒される候補生もいる。

だが彼女たちは夢を目指し諦めずに努力する。指摘されたところを克服し、次のミッションで煌めくステージを魅せる。

そして舞台を降りたときに流す涙は、前とは違った意味となるのだ。

 

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J.Y.Parkに努力の成果を認めてもらい涙を流す梨緒

 またチームミッションでは3〜5人でユニットを組んでパフォーマンスを行う。リーダとなった人がどのようなリーダーシップを発揮するか、チームワークをどのようにして高めていくかというのも見どころのひとつだ。

番組の演出方針なのか、ギスギスした軋轢はほとんど見られない。10代の女の子たちが集まれば喧嘩の1つや10つくらい起きてるのだろうけれど、おそらく高すぎるハードルに対し一致団結して乗り越えるためには仲間割れなんてしていられないのではと思う。ぼくのような人間関係の嫌な面はあまり見たくない人でも安心して見ていられる。*4

 

それなりに長く語ってしまったがまだまだ語り足りない。というか内容についてほとんど触れられていない。J.Y.Parkの説明に紙幅を割きすぎてしまった。NiziuのリーダーとなったMAKOのリトルJ.Y.Parkとも言える努力超人ぶりや、MAYUKA*5のシンデレラストーリーなど、ひとりひとりの参加者についても語りたいことはたくさんあるのに。いっそのことNizi Project全話解説してもいいんじゃないか。とはいえ、いずれまた機会に。

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最後に推し(MAYUKA)の優勝画像を貼っておきます。はい、優勝。



*1:韓国ではアイドルのオーディション番組が数多くあり、骨折や肉離れなどで離脱する参加者が多発するほどさらに過酷である

*2:おそらく学生時代のトラウマ

*3:キューブがすべて集まっていなくても追加合格となるメンバーもいる

*4:そういうのが見たい人はバチュラーを見てください

*5:推し