前回の続きです。
■11冊目『門』夏目漱石
『それから』の続編とも読める作品。略奪婚とも言える経緯を経た夫婦の罪の意識と、そこから生じる人生への諦念。生活が行き詰まっていくのは自分の過去に由来する因果として何もしない主人公が、救いを求めて禅門を叩く。結局何も解決しないあたりは漱石の実体験なのか。神による救済を信じたドストエフスキーとは対照的に、漱石には宗教的超克はありえないのですね。
なぜ読もうと思ったのかさっぱりわかりませんが、とにかく読んでみました。トリックは途中でわかりましたが面白く読めました。しかし東野圭吾の真骨頂は『白夜行』などの超長編なのかなと思います。このくらいの長さだと用意された設定の書き割り感が拭えない印象。要するにミステリのためのミステリを描いているのに、中途半端に情動を追っている部分が気になりました。
今更初読です。語り始めのあたり、青豆が異世界に踏み込むシークエンスや天悟とふかえりのぎこちないやり取りなんかは面白かったのですが二人の関係がリンクするあたりはなんとなく安易に堕した感が否めません。テーマの多様性はともかくとして、『ねじまき鳥クロニクル』や『海辺のカフカ』に比べるとフィクションとしての強度が低いように思います。
『ジョジョの奇妙な冒険』でおなじみの荒木飛呂彦の創作術が書かれています。ストーリーの作り方は小説においても参考になります。「物語はプラスの方向に進まなければならない」というのはなるほどと思いました。コマ割りの解説では視線誘導について解説しているんですが、最近のジョジョって一見して何が起こってるのかわからないですよね…。
■17冊目『満願』米澤穂信
米澤穂信の作品は『追想五断章』以来遠ざかっていたのですが、久しぶりに手に取った今作は上質なミステリでありつつもしっかりと米澤穂信の独自性が感じられる作品でした。コンセプチュアルではない短編集は初なのでは? 『夜警』と『万灯』が好みですが、直木賞の選考会では東野圭吾が「コレラの記述が間違っている」といって反対したそうです。そうであったとしても、僕としては作品の質は決して落ちるものではないと思いますが。
■18冊目『あなたのための物語』長谷敏司
そろそろSFが読みたくなったので。人工知性に物語を描かせる話、というと野崎まどの「小説家の作り方」と図式が同じですね。こちらは生命とは何かというイーガン的テーマになっていますが。日本人作家の手によってこのようなハードSFが描かれたことは喜ばしいことですが、僕としては好みではありませんでした。
■19冊目『知らないと恥をかく世界の大問題』池上彰
なんで読んだのかわからないシリーズ第二段。池上彰をテレビを見たときに抱く感情そのままの読書感想になります。
■20冊目『書きあぐねている人のための小説入門』保坂和志
保坂和志の小説を一冊も読んでいないのに小説指南を読むという行動に出ました。ふむふむと納得できる部分も多かったです。総合小説の書き方はためになりますが、それができれば苦労しないわけで…。佐藤亜紀『小説のストラテジー』を思い出しました。あちらのほうがよりテクニカルですが。