惑星間不定期通信

小説を書いています。本や映画の感想やその他なども書きます。

いまさら自作について「こどもの国」

 

「こどもの国」について。

 

半年前の作品なので「いまさら」と言うべきではないかもしれないけれど。

特殊な教育施設を舞台にした物語を作りたいとずっと思っていた。孤児院の話を書いてボツにしたこともあったのでこの作品はそのリベンジとも言える。

この作品はタイトルから思いついたというか、まず最初に仮題として考えていたものをそのままタイトルにした。「こどもの国」は僕が実際に通っていた幼児教育機関の名前だ、と思う。うろ覚えなので確かとは言えないけれど。

小説の中では「こどもの国」はエリート教育のための歪んだ隔離施設となっているけれど、もちろん僕の通っていた現実の「こどもの国」はそんな胡散臭いものではなくて、ちゃんとしたモンテッソーリ式の幼児教育施設だった。

将棋棋士藤井聡太七段の活躍によってモンテッソーリ教育がにわかに注目され、そういえば僕もそんな教育を受けていたことを思い出した(連勝記録を更新していた頃、東海地方のローカルニュースでは毎日のように藤井七段のニュースが流れていた)。

幼い頃にUFOに連れ去られたんじゃないだろうかと思うくらいに小学生以前の記憶をことごとく失っているので、具体的にどんな教育を受けたのかは覚えていない。先生の為に手回しのコーヒーミルで豆を挽いていた記憶だけがぼんやりとあるが、それは別にモンテッソーリ教育とは関係ないだろう。

大学生の頃のバイトでものすごく頭の良い小学生たちに勉強を教えていたことも影響しているかもしれない。高校三年生で習うような微積やベクトルを10歳に満たない子どもたちが解く様子を見てきた。

僕としては頭の良い子どもは(少なくとも頭の悪い子よりも)好きだし、幼児教育についても別に反対的な立場にはないのだけれど、どうしてこんな小説を書いてしまったのかはわからない。本当に。嘘ではないです。

 

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科学技術は人類の進歩だけではなく暴力や惨禍も間違いなく生み出してきたはずだし、科学の発展と戦争の歴史は切り離せない。マンハッタン計画では世界最高峰の科学者たちが結集して人類最悪の核兵器を誕生させた。フィクションみたいな「悪の科学者」だってきっと実在するだろうし、そうでなくても知性を悪用する人間なんてこの世にはたくさんいる。

悪意。

道徳心は後天的に教育される。家畜を殺して食べることは悪ではないが、愛玩動物を殺すことは悪だとされる。それはなぜか? 大人になるにつれて善悪のラベリングは出来るようになったけれど、社会が変わればラベルの見方は変わる。戦争になれば人殺しだって正当化される。そう考えると善悪の基準なんて子どもには無用なのではないか。

とはいえ本作の主人公たちは「なんだかとても悪いことがしたい」と言っているので、自分の行為が「悪」に分類されることを自覚している。悪への指向性は善に向かうそれよりも強い。一般的には善いとされることをするよりも悪いことをする方が快感だろう。僕はとにかく無邪気に悪い子どもたちを書きたかった。

今作のカメラワークというかストーリーテーリングはまたしても海外ドラマの「ブレイキングバッド」シリーズとその続編である「ベターコールソウル」シリーズに影響を受けている。善良だったはずの人々が思いがけず悪行に手を染める、という物語性にはそれほど影響されていないけれど、登場人物の行為が連鎖していく面白さみたいなものは取り入れたいと思った。

僕としてはよく書けた作品だと思っているけれど(それは単に最近書いたからかもしれない)、どうやらあんまり読者からの評価は芳しくない気がする。多分主人公たちがあまり好きになれないからではないかと思う。まあ、いけ好かない小賢しいガキを好きになるほうが難しいのかもしれない。

僕としては別に登場人物が好きになれなくったって面白い小説は面白いと思うのだけれど、魅力のある人物というのはやはり重要だし、主人公たちの行為の正当性みたいなものをきちんと描くべきだったと反省している。「ブレイキングバッド」でも、主人公のウォルターの悪行はやむを得ず追い詰められた末の行為として丁寧に描かれているから、どれだけ残虐な人間になっていってもウォルターを(ある意味では)応援したくなるのだろう。

僕としては徹頭徹尾悪い子どもを描きたかったのでその点では悔いはないけれど、そもそもコンセプトが悪かったかもしれない。僕の好みが一般的なものとは乖離していたということで……。

 

表紙絵は今までとはだいぶ印象が異なったダークなものとなっていて、前作の「硝子と眼球」のダークさとはまた違ったものになっています。これはlaicadogさんによる意図的なもので、既刊を並べたときに印象が平坦にならないようにという工夫です。そういう発想が僕には全く出てこないので非常に助かります。文芸書っぽい書影になり大変気に入っているので、僕としてはもっと売れてもいいんじゃないかと思っているのですが…。