惑星間不定期通信

小説を書いています。本や映画の感想やその他なども書きます。

メキシコ旅行記 十六日目「語学力の必要性」

 月曜日。昨晩早く寝たおかげで六時半に起床。やたら寒く震えながら朝食へ。いつものカフェにてフリッターを食べる。味付けがあまりないのでサルサをかける。この国の料理はサルサ以外のときはあまり味付けに工夫がないのではないかと思う。バスに乗り研究所へ。

 午前中、腹が痛くなったので実験装置がある建物とは別の離れた場所のトイレまで行った際(ホセに半ケツを見られてから、僕は一番近くのトイレを避けていた)、久しぶりにハビエロに遭遇した。

 ハビエロは学生ではなくポスドクなので、他にも研究テーマを抱えているらしくエルネストたちに比べると僕たちのいる研究施設に顔を出すことは少ない。

 彼の英語はスピードが早く、七割くらいしか聞き取れない。さらに彼はとてもおしゃべりなので会話についていけなくなることが多い。プエブラはどうだったか、と訊かれたので綺麗な街だったと答える。他にも何か言われたが、あまりよくわからなかった。とりあえずまたあとで僕らの研究施設の方に顔を出す、と言っていた。

 昼飯は食堂でつくねハンバーグとパンケーキ、スープと温野菜を食べる。やけにヘルシーで薄味である。めちゃくちゃに辛かったりサルサソースをこれでもかと掛けたり朝からステーキを食べたかと思えば、こんな薄味の料理を出されることもある。極端な国である。

 昼食を終えて仕事をしていると、約束通りハビエロが顔を出した。

 一通り事務連絡をすると「もう飯は食べたか?」とハビエロは僕達に訪ねた。
「もう食べたよ」と僕らは答える。
「もう食べちゃったの?」ハビエロは心底驚いた顔をした。「本当にもう食べちゃったのか?」ハビエロは繰り返し尋ねる。

 もしかしたら午前に会ったときに、一緒に飯を食おうと言っていたのかもしれない。ランチという単語は言っていなかったと思うが……。申し訳ないことをしてしまった。日本に帰ったら真面目に英語のリスニングの勉強をしなければならないと痛感した。

 五時頃に作業を終えて管理人に施錠を頼む。彼は実験施設の隣の建物に駐在しており、鍵の開け閉めをする際は彼に頼まなければいけないルールになっている。管理人は恰幅が良く(メキシコの成人男性はほぼ皆恰幅が良いのだけれど)、人の良さそうなおじさんである。

 施錠をお願いすると彼は快く引き受けてくれた。

「なあ、日本のポストカードとキーホルダーをくれないか」

 管理人のおじさんは言った。

 どうやら、11月に日本から研究スタッフがまた来る予定なのでそのときに渡してくれということらしい。いきなり頼まれたので驚く。しかもなぜキーホルダー。

 夕食は広場沿いの店で魚料理を食べる。てりやきソースのかかった白身魚で、味はそれなりに美味い。魚に照り焼きソースをかけるのは日本人にとってあまり慣れないかもしれないが魚自体は柔らかく味も良い。イメージ的にはカレイの煮付けに近いかもしれない。

 隣の店ではまた素人ミュージシャンがカラオケで歌っていた。ホワイトストライプスやレディオ・ヘッドをスペイン語(なのかどうかさえよくわからない不明瞭な発音)で歌っていたが、これがまた酷いアレンジだった。どうして彼らは自分の国の音楽を歌わないんだろう? とはいえ食事の時にあのメキシコ歌謡を聞かされたらまた滅入ってしまうけれど。

 ホテルに戻る前に即席遊園地を少し見る。賑わっている様子がないので儲ってないだろう。ホテルに戻り、風呂に入って洗濯し、「孤独の発明」を読了して就寝した。

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街にやってきた移動式の遊園地。子どもたちが遊んでいる風景はほとんど見かけなかった。