惑星間不定期通信

小説を書いています。本や映画の感想やその他なども書きます。

メキシコ旅行記 二十四日目「トウモロコシ畑の海と教会の旗」

 火曜日。寝る前にテキーラを飲んだせいか午前五時に目を覚ました。二度寝も出来ずドストエフスキー「白痴」の下巻を読み進める。

 朝食にいつものカフェに行くと開店準備がまだできておらずいつもの席に座れなかった。今週に入って徐々に開店準備が遅れている気がする。頼んだことの無いメニューに挑戦してみたら、我々が「餡子」と読んでいる豆の漉したものが大量にかけられたトルティーヤが出てきた。この「餡子」は塩茹でしたあずきのような豆をペースト上にしたような味で、素朴で悪くは無いが大量に食べたいような代物では無い。気持ちが萎えて、不調気味の食欲もますます出なくなる。

 ローテンションでバスに乗ると、いつもと同じ行き先のバスに乗ったはずなのに、乗客がいつもは見かけない女子高生ばかりだった。我々の行く先に高校なんてあっただろうか、と首を傾げているといつも直進する道で曲がり青々としたトウモロコシ畑を横切る道路を突っ走り始めた。

 慌ててバスを降りると、そこはトウモロコシ畑の真ん中の教会であった。祭りでも無いのに教会の尖塔の先には旗がぶら下げられている。

 僕たちはトウモロコシ畑の真ん中を歩いて、研究所に向かった。

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トウモロコシ畑の真ん中に建つ名の知らぬ教会

 三十分くらい歩いてようやく研究所にたどり着いて仕事を開始する。大量のコネクタを差し替える作業をして腱鞘炎になりかける。力を込めないとコネクタが差せないので指先も痛くなる。全てのコネクタを差し替え終えると午後一時になっていた。非常に疲れた。

 昼食は食堂にてツナサラダをアボガドにつめたものを食べる。食欲は湧かず。軽く食べられそうなメロンとバニラアイスを食べる。

 四時には仕事を終えると管理人に「今日も早いじゃないか」とからかわれる。もしかしたら日本人の残業文化がメキシコにも知れ渡っているのかもしれない。帰る際にエルネストが研究所内に歩いている犬を見て

「ドッグは日本語でなんて言うんだ?」と僕に尋ねた。

「イヌだよ」と僕は教えた。

 そうするとエルネストはアレハンドロの肩を叩きながら「イヌ! イヌ!」と呼び始めた。メキシカンジョークは意味がよくわからない。アレハンドロはエルネストよりも二回りくらい年上のはずだが、どういうわけかこの二人はかなりフレンドリーな関係のようだ。

 ホテルに戻り、すぐに風呂に入って洗濯をする。明日の朝にはホテルをチェックアウトするのでいつもよりも強く水を絞る。

 一通りやることを終えて夕食までネットサーフィンをしていたのだが、雨が強く降り出して雷が近くに落ちた際に、急にネットが使えなくなってしまった。

 以前にも天気が悪くなった際にネットが不通になってしまったことがあるが、やはり雷のせいなのかもしれない。しばらくするとネット回線は復活した。

 夕食はメキシコスタッフたちと広場沿いのレストランへ。ポブラーノソースの掛けられたチキンとテキーラを飲む。

「これはプエブラのトラディショナルな酒だ」と卵酒のような甘い酒を飲む。美味しい。テキーラも美味い。スーパーで買った安物とは大違いである。しかもおごってもらってしまった。食後は広場の出店をひやかす。先ほど飲んだ卵酒が売っていたので色々な種類を試飲する。美味しかったが既にテキーラを買ってしまっているので買わないでおいた。

 いくつかの出店では日本の商品も売っていて、招き猫や剣玉や日本刀のレプリカが売っていた。なぜかドーモくんのTシャツやぬいぐるみが散見されたが、もしかしてメキシコでは人気キャラなのかもしれない。

 明日はこの街を引き払ってメキシコシティに一泊し、ようやく日本に帰ることになる。

 おそらく、僕はこのチョルーラの街には二度と来ないだろうと思うと、街の景色が惜しく思えた。広場や教会の群れや滞在したホテルを目に焼き付けるようにして歩いた。