もう2015年も終わってしまいますがいかがお過ごしでしょうか。今年は1作も小説を書き上げることができず不甲斐ない限りです。なぜかシステムエンジニアという職に就いてしまい毎日仕様書だのプログラムだのを書いているとアウトプットに費やすエネルギーが不足してしまいます。と、いうのは言い訳ですね。皆さん日々働きながらも創作活動しているのだから。ほぼ100パーセントを創作に打ち込めた学生時代がどれだけ恵まれていたか実感します。
というわけでアウトプットのリハビリテーションとして今年読んだ本についての感想をまとめて書いていこうと思います。本当は一冊読むたびに感想を書くべきなのかもしれませんが、嚙み砕く時間というのも必要かなと思いまして。今年読んだ冊数は57冊で近年では最も多いです(まだあと3日あるので増えるかもしれませんが)。というのもエンタメ小説や株式投資関係の新書などを読んでいたからです。ここにきて読書の趣味が変わるというのもおかしな話ですが、マンネリに陥っていた近年に比べて、良い読書時間が過ごせたなと感じています。
- 作者: 野崎まど,森井しづき
- 出版社/メーカー: アスキー・メディアワークス
- 発売日: 2009/12/16
- メディア: 文庫
- 購入: 6人 クリック: 252回
- この商品を含むブログ (107件) を見る
■1冊目 『[映]アムリタ』野崎まど
いきなり野崎まどから始まるところが2015年を象徴しているような気さえします。野崎まどとの出会いはとにかく衝撃でした。「自分がずっと読みたいと思っていた日本の小説はこれだ」とさえ思うような、小説というメディアでしかできない表現とストーリーの面白さを兼ね備えた、間違いなく現在のエンタメ小説の最先端と言って良い作家でしょう。
デビュー作である『[映]アムリタ』はそこはかとなくSFとホラーの香りがするミステリ風味の青春小説。ラノベでは手垢のついた存在となってしまった「天才キャラ」をこのような形で書いた筆力には瞠目に値します。デビュー作でありつつも、6作目の『2』まで同一世界の連作と読める構成や、人智を超えた存在の恐ろしさと魅力など、森博嗣を彷彿とさせる部分がありますが、森博嗣が自らの世界観を「森博嗣ワールド」として固めていった点と違って野崎まどは毎回世界観を更新するというかハンマーでぶち壊しているようなイメージがあります。
■2冊目 『舞面真面とお面の女』野崎まど
と、ベタ褒めした一作目からの今作は正直言ってこれ一作では物足りなさを感じてしまう。十分面白いのだけれど、他の作品を知っているだけに、力を出し切っていないのではと思ってしまう。ホラーの中にあるシュールなのかどうなのかよく分からないギャグが野崎節を感じる。
■3冊目 『小説家の作り方』野崎まど
小説の書き方ではなく作り方。「小説を超越した小説の作り方」。SFだ! 一作目「アムリタ」と似ていますが今回はSF的テーマを扱っています。
死なない生徒殺人事件―識別組子とさまよえる不死 (メディアワークス文庫)
- 作者: 野崎まど
- 出版社/メーカー: アスキーメディアワークス
- 発売日: 2010/10/23
- メディア: 文庫
- 購入: 3人 クリック: 45回
- この商品を含むブログ (46件) を見る
■4冊目 『小説家の作り方』野崎まど
今度はミステリ。不死の存在の殺し方について。不死という存在の描き方がロジカルで好みです。小道具の配置と物語の展開とフィニッシングストロークな結末が好きです。
■5冊目 『パーフェクトフレンド』野崎まど
『2』までの連作のうち、今作が最も好きかもしれません。一作目ありきのオチはいただけませんが、それを補って余りある物語。「友達とは何か」という問いに天才小学生が導き出す答えとは。科学で問題を解こうとする可笑しさと微笑ましさとセンスオブワンダーが素晴らしい。いちいち挟まれるギャグはちょっとうんざりしますが。
■6冊目 『2』野崎まど
異形の問題作。デビュー作から続いた一連の作品を全て繋ぎ、「この世で最も面白い映画を撮る」という『アムリタ』でのテーマを再演する。色々な意味でまともじゃない「続編」です。しかし大好物でした。
■7冊目 『ファンタジスタドール・イヴ』野崎まど
版元を早川書房に移しての作品。アニメのノベライズとなってはいますが、アニメとは全く関係ない。真面目な語り口でとんでもないことをやっている感じが森見登美彦を彷彿とさせます。こってりとしたSF。
「帰りたまえ。彼が、残された右腕で触れる乳房が、こんな陳腐でありふれた、そこら辺の、誰にでも手に入る乳房でいいはずがない」
ようやく野崎まどがひと段落。
再読です。表題作とファミリー・アフェアが好きです。表題作は『パン屋襲撃』という短編の続きなのですが、今作だけ読んでもまったく問題はありません。というか、僕は長い間読んでいませんでした。ユーモアと現代的な切実さに満ちた都市の寓話としても読めるし、暗喩的にも読むことができる、村上春樹短編の最高傑作のひとつだと思います。
■9冊目 『満腹論』坂本真綾
『アイディ。』以来の坂本真綾さんのエッセイ集。食がテーマですがグルメではなく食べることにまつわる日常エッセイ。普通のエッセイストの本って、作者だけが面白がっているような記述やウケを狙った独善的な書き口に出会って萎えたりすることが多々あるんですが、開かれたユーモアセンスで毎回書かれているところが真綾さんの凄いところだと思います。どこまでの等身大の姿は彼女の楽曲と同じで、媒体が変わっても自分のスタイルを貫けるところはまさに彼女の強さでしょう。
ちなみにサイン本です。やったー。
- 作者: 大貫良夫,渡辺和子,屋形禎亮,前川和也
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2009/04
- メディア: 文庫
- 購入: 1人 クリック: 10回
- この商品を含むブログ (10件) を見る
■10冊目 『世界の歴史<1> 人類の起源と古代オリエント』
ウィリアム・H・マクニール『世界史』を読んでから世界史について体系的に学びたいと思っていたのでようやく手をつけ始めました。このシリーズは歴史の流れに沿いつつ細かいエピソードも拾っているので読み物として面白いです。村上春樹もこのシリーズを読み返したとか。とはいえ文明が開かれる前の類人猿については中々食指が動かず読み終えるのに時間が掛かってしまいました。