惑星間不定期通信

小説を書いています。本や映画の感想やその他なども書きます。

「わたしの庭の惑星」試し読み

 

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 私の庭に浮かぶ巨大な球体。勿論、それは突如として上空から降ってきたわけでも風に吹かれて何処かから転がってきたわけでもない。もはや仰がねば全貌を視界に捉えることができないその物体を、私たちは惑星と呼んでいる。


「初めに種を植えました。数日後小さな芽が生えてきました。乳白色の芽の先端に丸い球が付いていて、最初それは葉が丸まっているのだろうと思いました。しかし球は広がることなく球のまま巨大化していきました」

 その一連の不可解な現象について彼女はそのように説明する。

「一ヶ月で惑星はわたしの背丈よりも大きくなり、すぐに家の屋根をも越してしまいました。どれだけ巨大化しても自重を持たないかのように、芽に繋がれたままこうして空に浮かんでいます」

「ちょっと待ってほしい。そもそもが種子から生えてきたというのなら、どうして君はあの物体を惑星などと呼び始めたんだ?」

 そんなくだらない質問が飛んでくるとは思わなかったというように、彼女は薄く口の端を持ち上げてみせる。

「名称に意味はありません。確かにあれは植物なのかもしれませんが、光合成をして大きくなっているとは到底思えないでしょう。謎の物体であるにしても、等速度で地球の周囲を公転していると考えるならばむしろ衛星と呼んだほうが正しいのかもしれません。ですが、わたしはあの物体が現在のままで留まっているとは思えないのです」
「君はあれが巨大化した先に何が待ち受けていると考えている?」

 この質問に対し、彼女は冷笑を消した。

「あれが何であれ、誰かの目に触れることは何か恐ろしい事態を招くのではないかと恐れています。不思議なことに他人には認識することができないようです。これまでに、いくら巨大化していこうとも誰かに気付かれることはありませんでした」
「じゃあ君の不安は杞憂だという訳だ。誰も見えないなら気付かれることも無い」
「でもあなたには見えているのでしょう?」

 首肯する。確かにそうだ。

「今はわたしとあなたにしか見えていませんが、いずれ他の人々もこの惑星に気付くでしょう。そのときのことを考えると、わたしは恐ろしくてたまらないのです」
「もしも全ての人たちにこれが見えるようになったら一体何が起こるのだろう?」

 私の問いに、彼女はゆるゆると首を横に振った。私はため息を吐く。結局我々には待つことしかできないのだ。

 惑星は今日も大きくなり続けている。

 その果てに何が待ち受けているのか、私たちは未だ知らない。
 
 その女に出逢ったのは、私が大学を卒業し教師としてその街に赴任した初めての秋だった。土地勘の無さから辺鄙な場所に居を構えてしまい、早朝の始発のバスに乗って通勤していたのだが、私の次に乗り込んでくる乗客が彼女だった。次に人が乗り込んでくるのは街が栄え始める先ことで、三十分ほどの時間を私たちは二人で過ごさねばならなかった。彼女がそのバスを利用するようになったのはその年の夏頃からのことで、一番後ろの席を陣取る私の斜め前にいつも座るようにしていた。年齢はおそらく私よりも幾らか上かといったところだが、油気のない髪が草臥れた印象を強くしている。初めに彼女を奇妙に思ったのは夏だというのに長袖の服と手袋を身に付けていたことと、傍目にも明らかに日に日に顔色が悪くなっていたことだった。

 素肌を隠すような服装をしていたのは何かの怪我や発疹をしていたからなのかもしれず、或いは単に宗教的もしくは職業的に肌を守らなければならない理由があるのかもしれない。前者の理由から、彼女は何か病気を抱えていて、顔色の悪さもそれによるものだと考える事も出来るだろう。いくら妙齢の異性だとして、そして奇妙な点をいくつか抱えていたとしても、単に毎朝乗り合わせるだけの縁を温めようと思う程私は厚顔でもなく、特に関わりも無く日は過ぎていた。

 ある日、彼女がいつも降りる停車場に近付いても停車ベルを鳴らそうとしなかった。運転手もその停車場に停まるのが半ば習慣のようになっている故に一向に停車ベルが鳴らないことを訝しみ、駅名を殊更大きな声で呼び掛けるものの、彼女は動かなかった。

 眠ってしまったのではないかと私が顔を覗き込むと、彼女は眠るどころか目を見開いて窓に張り付くようにして外を見つめていた。その異様さに大丈夫かと私が声を掛けると、はっとしたように振り向き「あなたにはあれが見えますか?」と彼女は遠くの一点を指差して訊ねた。

 その方向を見遣ると、そこには街を飲み込むような巨大な球体が浮かんでいた。

 あの大きさならすぐに気付いていたはずだろう、なのに私は彼女に言われるまでそれに気付かなかった。巨大な球体は朝日の光を遮り街に影を落としている。球が巨大ならばその影はさらに巨大で、もはやその巨大物体の一部を形成しているという意味で影の巨大さは球をさらに大きく見せていた。街を飲み込むような、というように形容したが、影を球の一部だとすると文字通りに街は球に飲み込まれていた。
「なんですか、あれは」

 我ながら馬鹿な質問だ。あれは何かと訊ねて、何か納得できるような回答が得られるわけが無い。
 とはいえ、彼女の回答も私の想像なぞ及びもつかないほど馬鹿馬鹿しいものだったのだが。

「わたしの庭の惑星です」と彼女は言った。
 大体このようにして私は惑星に出逢った。

 

 

.................続きは書籍にて。

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「死にたくなるほど好きならば」試し読み

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 僕の人生において、周期的に変な女の子と出逢うように宿命付けられているのではないかと気付いたのは、僕が高校生くらいの頃だったと記憶している。


 何年かに一度の頻度で惑星同士の軌道が重なり合うように、何らかの法則に基づく周期で彼女たちは僕の前に現れる。やがて僕はそろそろ変な女の子に遭遇するであろう時期を察知できるようになった。その予感に基づいて僕は神経を張り巡らせて注意した。
 けれど、結局のところ変な女の子との出逢いというのはいくら身構えたとしてもあまり意味がないのかもしれない。彼女たちは想定を超えて僕の人生をかき乱し、そして去っていく。とにかく、いくら対処できないとしても心構えは大事だ。たとえそれが悪あがきだとしても。


 やがて僕はひとつの特技を身に付けた。出逢った相手が変な女の子かどうかすぐに判別できるという特技だ。鍛錬を重ねるうちに、少し顔を合わせるだけでその子が僕の人生に宿命付けられている変な女の子かどうかわかるくらいにまでなった。

 そんな能力なんてほとんど役には立たないんじゃないかと思われるかもしれない。だけど、仲を深める前に変な女の子か判別できるというのは僕の人生においてとても重要だ。繰り返すけれど心構えはとにかく大事なのだ。

 僕はこれまでの人生で何人かの変な女の子と出逢い、そして別れた。彼女たちの何人かと恋人になったこともあるし、ならなかったこともある(全員と恋人関係になっていたとしたら、僕の身はとても持たなかっただろう)。

 彼女たちにはおよそ普通とは言えない人間性を持つ以外の共通項は見当たらなかったが、今となっては彼女たちとの関係は決裂し、もはや連絡さえ取れなくなってしまったという点においては共通している。彼女たちとの関係はいつも長続きしなかった。そしてこれからも再会することはないだろうと僕は思っている。何も根拠のない予感だけれど、それは確信と呼んでも良いくらい確かな予感だ。

 もしかしたらこれは宿命ではなく呪いなのかもしれない。僕の人生はそのような規定の上にあるのだという呪いだ。だとしたら僕を呪っているのは僕自身だろうけど。

 だけどたまに、いつか僕と彼女たちが一堂に会する日が来るのではないかと妄想することがある。ある日の朝、郵便受けに招待状が届いて、案内された会場を訪れるとこれまでに出逢った全ての変な女の子たちが僕を出迎える、そんな妄想だ。

 僕の宿命染みた呪いが全て解け、彼女たちの特異な人間性と僕の偏狭さによって招いてしまった軋轢やら何やらを水に流し、握手を交わして思い出話に花を咲かせる。そんな同窓会めいたハッピーエンドを僕は夢想する。何百年に一度の惑星直列のように、僕が生きているうちにはそんな日は来ないのかもしれないけれど。

 

         *     *     *

 
 大学に入学したときに僕は実家を離れた。一人暮らしを始めるにあたって僕はいくつかミスを犯した。その中でも最悪なミスは洗濯機を買わなかったことだった。

 実家に居た頃は家事をほとんど親に任せきりで甘やかされた生活しか送ってこなかったせいで、独りで暮らすことに対する想像力が欠如していた。家に帰れば温かい食事と風呂と布団が用意されていて毎朝清潔な服を着ることができる、そんなことは魔法でも妖精の仕業でも無く親の労力によるものであり、そんな当たり前の事実にいちいち打ちのめされながら必死に新しい環境に順応しなければならなかった。

 そう、想像力の欠如のせいで僕の部屋には洗濯機が存在しないのだ。両親や先に実家を出た兄も洗濯機を買えとは言ってくれなかった。もちろん訊かなかった僕が全面的に悪いのだが。ともかく、僕の部屋にはテレビやオーディオ機器や大きな本棚はあるのに洗濯機がない。要するに実家の自分の部屋にあったもの以外に対する想像力が足りていなかったのだ。

 おかげで週末にまとめてコインランドリーに持っていくか、小さなユニットバスの浴槽で手洗いをしなければならなかった。大学二年生になり、三年生になっても僕はコインランドリーに行くか浴槽で手洗いをしていた。ここまで来るといまさら洗濯機を買うわけにもいかない。

 テレビでコメディアンが「タイムマシンがあるとしたら、ポイントカードを作りますかと最初に尋ねられた日に戻りたい」という漫才をしていた。最初に来店したときに作らなかったポイントカードを今さら作ったとしても、これまでに断って得られなかったポイントは帰って来ない。ポイントカードの所持を尋ねられる度に後悔の念に囚われてしまう。だからタイムマシンで最初の日に戻りたい、という内容だ。そんなしょうもないことにタイムマシンを使うなと突っ込まれる話だったが僕はとても共感した。僕の洗濯機に対する思いも同じだったからだ。

 汚れた自分の下着を浴槽で洗う度に僕は後悔する。だが今さら買うのも敗北感を覚える。これまでの自分の行為が無駄になってしまう気がして、これからも無駄な行為を重ね続ける。

 暴落する株を損切りできずに手放せないトレーダーのように、過去に囚われて現在地点での正確な判断を下すことができない。僕の人生はそんなポイントカード的な亡霊に満ち満ちている。

 変な女の子たちについて思い返すのも、同じように後悔と自責に苛まれているせいだろうか。
 
 だいたいこんなような話を、僕はコインランドリーで遭遇した女の子に話した。
 彼女は僕の話に相槌さえ打たず黙って聞いていた。
 そして最後にひとことだけ、
「わかった」 
 白石さんはそう言った。

 いったい、何がわかったというのだろうか。
 僕がそう尋ねると白石さんは首を少し傾げて無言でこちらを見つめた。無感情に刺すような瞳が僕に向いている。いちいち説明しなければいけないのか、と言っているような目だった。

「いちいち説明しなければいけないの?」
 彼女は実際にそう言った。

 目で語るだけでは不足だと思ったのか、あるいは僕の洞察力を過小評価しているのかもしれない。

 僕は子どもの頃に公園で遊んでいたサッカーボールのことを思い出した。遊びすぎて空気が抜けてしまったボールは強く蹴り飛ばしても全く転がらなかった。それでも新しいボールを買ってもらえなかったから、球形でなく歪な物体になるまで使い続けていた。彼女との会話の弾性力はあのサッカーボールと同じくらいだった。

 僕は小さなため息をつき、轟々と唸りを上げる洗濯機を見遣った。赤いLEDが、洗濯乾燥が完了するまでの時間を示している。それは僕らに残された時間だ。

 僕らはコインランドリーの匂いに包まれている。

 そもそも僕はなぜこんな雨の日にコインランドリーに来なければいけなかったのか。
 浴槽で手洗いするのが億劫なときか、よほど汚れがひどいときにしかコインランドリーは使わない。理由は単純で金が勿体無いからだ。一般的な大学生はお金が無いのだ。

 雨の日にコインランドリーを利用することはまず無かった。せっかく清潔になった洗濯物が家に帰るまでに濡れてしまうからだ。だが、どうしても明日まともな服を用意する必要があって、こんな雨の日にコインランドリーを利用することになってしまった。ひらたく言うと明日デートする予定ができたのだ。

 それにしても、どうして女の子をデートに誘うというのはこんなにも絶望的にみじめな気持ちになるのだろう? うまく約束を取り付けることができても、何か重大な間違いを犯してしまったような浮遊感が足元にまとわりつく。デートなんて約束するんじゃなかった、独りで映画でも見ていればよかったのだと後悔する。いつもそんな感じだ。

 みじめなやりとりの後に携帯電話を握りしめながらそんな憂鬱な気持ちに沈んでいると、ふと明日着ていく服がないことに気付いた。外は雨模様で、今から洗ったとしても部屋干しでは乾きそうに無い。こういうときは何もかも噛み合わないんだ。舌打ちをして、僕は洗濯物をリュックに詰め込んで家を出た。

 

 そして、コインランドリーで白石さんに出会った。

 

         *     *     *

 

 白石さんは同じ学部の同期で、僕と同じ講義を受けていた。

 白石さんは講義室の前から三列目の右の机にいつも座っていた。なぜそんな細かいことをいちいち見ているかというと、それまで僕も同じ場所を陣取っていたからだ。その場所に座る理由は特に無いけれど慣れた場所というのは手放したく無いものだ。白石さんはいつも講義が始まるより少し早い時間から席を取っていた。しょうがないので僕は彼女の斜め後ろの四列目の席に座った。

 ある日、たまたま前の講義が早く終わったので、白石さんよりも早く席を取ることができた。すこしあとに講義室に入って来た彼女は僕の姿を見咎めると、入口で立ち止まり何も言わずしばらく僕を見つめた。僕は教科書を読むふりをしてその視線をやり過ごした。白石さんが歩き出して何も言わず僕の横を通り過ぎたときは一瞬ほっとしたが、彼女はそのまま僕の真後ろにぴたりと座った。白石さんは何か文句を言うわけではなかったが、無言の圧力が空気を媒介して伝播してくるのがはっきりと分かった。正直に言って、とても恐ろしかった。生きた心地がしなかった。それからは二度と彼女の定位置に座ることはなかった。

 しかし僕らのやり取りといえばそれくらいで、他に話したことはほとんどなかった。大学生の横の繋がりなんて希薄なものだ。ただ、近くに座っていると何となくひととなりは掴める。授業の内容をきちんと理解し、いつも独りで講義を受けていて、友達はそれほど多くない。彼女について知っていることはそれくらいだった。彼女は美人と言って良い容姿をしていたし、頭も良かったけれど、それだけの理由で仲良くなろうとするほど僕は異性に対して積極的ではなかった。
 
 僕が洗濯機に衣服を放り込み硬貨を入れて洗濯を開始しようとした、ちょうどそのときに白石さんがコインランドリーに入って来た。青色の傘を畳み、空いている洗濯機はどれかと店内を見渡したときに白石さんも僕に気付いた。

 だけど、説明したように僕らは学外で偶然出逢っても会話をするような仲では無い。無視するのも気まずいので僕は軽く会釈をしたが、彼女はちらりと僕の方を見ただけだった。そんなことでいちいち気分を害する人間ではないので、僕は軽く肩を竦めて聞こえない程度に小さく鼻を鳴らし、コインランドリー内に設置されたパイプ椅子に座って本を読みながら洗濯が終わることを待つことにした。

 洗濯から乾燥が終わるまで小一時間かかる。晴れていれば家に帰ることもあるけれど、だいたいは本を読んで待つことにしている。コインランドリーで本を読むのは好きだった。昔から僕は何かを待つというのは嫌いではなかった。たとえば空を眺めたり、街行く人を観察したり、こうして本を読んだり、暇を潰す方法を考えるのが好きだ。それにコインランドリーの暖かい乾燥機の匂いに包まれているとなぜか安心する。それに喫茶店とは違っていくら居座っても無料だ。もちろんコーヒーは出てこないけれど。

 白石さんは空いている洗濯機を見つけると、袋から衣服を取り出して中に入れ始めた。僕はすでに本に集中し始めていたが、視界の端でその姿を捉えていた。やけに洗濯物の量が多いな、と僕は思った。
「あっ」
 袋から洗濯機に移す際に、白石さんの手から衣服の一部がこぼれ落ちた。そして、偶然にも僕の足元にそれが滑ってきた。

 

 それは、白石さんの下着だった。
 紅色の、レースの付いた派手なブラジャーだった。

 

 その瞬間、確かに時が止まっていた。

 おそらく地球の自転も止まっていたんじゃないかと思う。

 僕は何も言えず、動くこともできなかった。落としましたよ、なんて拾えるわけがない。消しゴムを落としたのとは違うのだ。

 白石さんもしばらく静止していた。だが僕とは違い動揺しているのではなく、ただ無感情に落ちた下着に目を向けていた。まるで下着が自分で起き上がって彼女の手元に戻ってくるのを待っているかのようだった。白石さんがどれくらいそうしていたかはわからない。ものすごく長い時間だったような気がするし、一瞬だったかもしれない。当然のことながら下着は起き上がったりはせず、時間から切り取られた世界の一部としてコインランドリーの床に存在し続けていた。

 不意に彼女は僕の方を向き、口を開いた。
「ねえ、どう思う?」
 僕は彼女の言葉の意味がわからなかった。
「え、何が?」我ながら間抜けな声だった。
「私のブラジャー、どう思った?」
 白石さんはもう一度問いかける。

 この人は何を言っているんだろう、素朴な疑問が僕の脳内を支配した。

 一瞬の空白の後、僕は今までになく思考をフル回転させた。大学入試のときよりも脳を活用させ、圧縮された時間の中で彼女の問いに対する答えを探した。

 だが答えなんて出なかった。

 可愛いね、で良いのか。そんなはずがない。飼い犬を見せられた感想とは違うのだ。早く仕舞ったら、と冷たく言い放つのはどうか。気の利かない男だと思われるかもしれない。だけど気が利かないと思われたから何だというのか。色々考えているうちにだんだんと腹が立ってきた。なぜ僕が突然試されなければならないんだ。

「別に、どうも思わないけど」僕はぶっきらぼうを装って答えた。
「嘘」
 白石さんは即座に否定した。
「高梨君は嘘をついている」

 白石さんはそう言って、下着を拾い上げ洗濯機に投げ込んだ。洗濯機のドアを閉めボタンを押して洗濯を開始し、僕の方を振り返る。

 そのとき、僕は白石さんの顔を初めてまじまじと見た。

 思えば、予感は確かにしていたのだ。僕はもっと身構えておくべきだった。

 白石さんは正真正銘、パーフェクトに変な女の子だった。

「私はね、他人の下心を見ることができるの」
 白石さんは相変わらず無表情で僕を見つめている。
「高梨君、私の下着を見て興奮したでしょう?」

 

 

.................続きは書籍にて。

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新作「死にたくなるほど好きならば」の通信販売を開始しました。

 

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 ほんとうの世界のすがたは決して美しくはなかった。 

 

新作「死にたくなるほど好きならば」の通販を開始しました。

6年ぶりの短編集になります。 前作「わたしの庭の惑星」以降の全作品と書下ろし表題作を収録。「わたしの庭の惑星」も併せて再販します。

今回はBOOTHというサービスを利用させて頂いています。購入者の氏名や住所はぼくには分からない仕組みになっておりますので、個人情報を心配される方はご安心ください。※購入にはpixivアカウントが必要になります

 

■収録作

死にたくなるほど好きならば

紫陽花が散らない理由

あなたの物語

硝子と眼球

こどもの国

短編集「死にたくなるほど好きならば」を近日頒布します

 

 

6年ぶりの短編集「死にたくなるほど好きならば」を近日頒布します。

問題なければ5月3日に通販サイトを公開する予定です。

 

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「私はね、他人の下心を見ることができるの」
 白石さんは相変わらず無表情で僕を見つめている。
「高梨君、私の下着を見て興奮したでしょう?」

 

残念ながら頒布を予定していた第三十回文学フリマ東京は中止になってしまいました。コロナ禍のため仕方がないことですが尽力されていた文学フリマ事務局の皆様、来場を楽しみにされていた出展予定者・来場予定者の方々の無念は計り知れません。ぼくもまた無念を抱く人間のひとりです。

6年ぶりになってしまいましたが本来は去年の時点で収録作のすべてを書き終えていました。今年まで引っ張ったのはぼくの怠惰のせいです。しかもこうやって文学フリマにも出せず。せめて通販にて皆様の手元にお届けできればと願う次第です。

今回もイラストはらいかど様に描いていただいています。毎回印象が異なるのに驚かされますが、今回公開した表紙絵も背景のリアルさと人物の対比がとても気に入っています。これまで文学フリマにて頒布した短編のイラストも収録されていますのでお楽しみにください。

表題作の引用のとおり、前の短編集「わたしの庭の惑星」と大きく印象が異なると思います。ぼくの人格が変わったわけではないので根本が変わったわけではないですが、それでも6年という月日の堆積が顕れているのは間違いないです。ぼくとしては常に前より良い作品を書き続けていると思っているので、できれば多くの人の手に渡ることを祈っています。

では、もうしばらくお待ち下さい。

「感情」から書く脚本術

「感情」から書く脚本術  心を奪って釘づけにする物語の書き方

「感情」から書く脚本術 心を奪って釘づけにする物語の書き方

 

人生は、いつもうまくいくとは限らない。理不尽でカオスなものだ。だから、私たちは人生の意味に構造を与えて、物語として理解する。物語の中に、迷いがちな人生の答えを、そして普遍的な意味を見出すのだ。物語の中に、人生の処し方を、他者との付き合い方を、愛し合い方を、困難を乗り越える方法を探すのだ。物語は人生の分析でなく、人生を感情的に理解させてくれるもの。それも私たちが物語を必要とする理由の1つだ。つまり、物語とは人生の暗喩であり、生きるということの設計図だと言える。

 

ナポリの男たちについて

2008年といえば僕が大学に入学した年だが、その頃ニコニコ動画はまさに全盛を迎えていた。当時のニコニコ動画といえば日本のクリエイティビティが結集しており、目まぐるしく日刊ランキングが変動していた。僕の周りの大学生はみな当然のようにニコニコ動画のアカウントを持っていて、アカウントを持っていない人間は時代遅れ扱いを受けていた*1。つまりニコニコ動画といえばネットの最先端と言って差し支えないコンテンツだった。

いまはもう動画サイトの代名詞といえばYouTubeであり、YouTuberたちが億万長者になる時代だ。だが僕はいま、とあるニコニコ動画出身のゲーム実況者にハマっている。

僕がハマっているのはナポリの男たちという4人グループ実況者である。彼らのシリーズ実況動画をほぼ全て見尽くし、チャンネル会員になり配信アーカイブを100本(約200時間分)見通した。「いまさらゲーム実況?」「いい年してまだニコニコ動画なんて見てるの?」という声が聞こえてきそうだが、あえて僕はいまこの記事を書いている。

当時夢中になってニコニコ動画を見ていた人はこれから紹介する彼らの動画を見てほしい。きっと懐かしい、深夜にパソコンの前でひとり腹を抱えて笑っていた頃の記憶を思い出すのではないだろうかと僕は思う。

 

ナポリの男たちとは?

ナポリの男たちは2016年6月に結成されたゲーム実況者「ジャック・オ・蘭たん」「hacchi」「すぎる」「shu3」の4人によるゲーム実況グループである。ニコニコ動画での活動を中心としており、最近ではYouTubeでも活動。有料チャンネル会員数は1万人を超えると推測され、音楽業界、出版業界にもファンが多く、米津玄師や岡崎体育などがファンを公言。2019年にはゲーム実況者としては初の企画展示会を開催。池袋マルイと梅田大丸を会場とし、チケットが入手困難になるほどの盛況となった。

 

ナポリの男たちの特長

いまやYouTubeにはたくさんゲーム実況動画が上げられている。芸能人や有名YouTuberもゲーム実況をする時代だ。グループ実況者なんて珍しくない。

では、ナポリの男たちは他の実況者たちと何が違うのか。

 大きな特長は、元々活動歴の長い個人実況者たちが集まって結成されたグループということだろう。

グループ実況者たちの多くは元々仲が良いリアルの友人同士であることが多い。しかしナポリの男たちはそれぞれ個人として人気を確立した実況者たちであり、それぞれの能力が突出している。彼らを見ていると、攻殻機動隊S.A.Cの荒巻課長の言葉を思い出す。

 

我々の間には、チームプレーなどという都合のよい言い訳は存在せん。
あるとすればスタンドプレーから生じる、チームワークだけだ。

 

 グループ実況というとふつうは掛け合いの面白さや和気あいあいとした雰囲気を売りとしていることが多い思う。

しかし、ナポリの男たちはグループ結成以前にほとんどメンバー間の交流がなく、お互いの顔や本名さえ知らない間柄だった。いまでこそメンバーの仲は深まっているものの、結成初期はぎこちない雰囲気を隠せていない。

 だからこそ、彼らは個人実況者として培ってきた企画力や創作力を武器としている。コント形式でマルチプレイしたり、一人用ゲームをリレー形式で回したり、メンバーの初プレイの様子を他のメンバーが実況する「見る男」スタイルなど、ただプレイするだけではない工夫を取り入れている。

チャンネル限定の毎週配信では毎回なんらかの企画を発案し、動画制作に限らずノベルゲーム、テーブルゲーム、詩、小説、楽曲を制作するなど、その創作能力が遺憾なく発揮されている。そしてついには配信内の企画が原作となって「りぼん」にて漫画化された。「来週こういう企画を作ってきて」という要求に毎回期待を超えるモノを作ってくる創作力の高さには本当に驚かされる。

また、これはマニアックな楽しみ方になるけれど、あまり仲良くない男たちがだんだん仲を深めていく様子を観察するのも面白い。最初はトークテーマがなければ雑談すら出来なかった人間たちが、お互いの実力を認め合い、24時間耐久配信などで交流を深め、結成2年目にしてようやくリアルで顔を合わせる、という流れは謎の感動がある。実況動画で彼らに興味を持ったのなら、ぜひチャンネル会員になって配信アーカイブを見てほしい。

 

■メンバーの紹介

ジャック・オ・蘭たん

 グループの発起人で最年少でありながらグループのリーダー的ポジション。ゲーム実況者として最古参のひとりであり、ゲームに対してコメントしつつプレイするスタイルを「ゲーム実況動画」と初めて名付けた実況者であり、別名「実況界の三葉虫

企画力の高さはメンバー随一であり、週間配信の企画案採用率は最も高い。ノベルゲームや楽曲の制作などコンテンツ創作力も高く、その創作能力でグループを牽引する。

 

すぎる

最年長でありながら少年のように喜怒哀楽をストレートに表現する「西の天才実況者」。瞬発力の高いツッコミと、独特なライフスタイルと天然な性格によるボケ的な側面を併せ持つハイブリッド関西人。

後述のhacchi、shu3を勧誘したグループ結成の立役者であり、天然で奔放な振る舞いの裏でメンバーを気遣い和を取り持つ潤滑油的存在。歌唱力や演技力も高く他のメンバーの創作物においてもその能力が発揮されている。

 

hacchi

2008年に“The Immortal“というマイナーゲームの実況動画においてゲーム実況の分野の動画で初めてニコニコ総合ランキング1位を獲得した「実況界の金字塔」。マイナーだったゲーム実況をひとつのジャンルとして確立させた伝説的な実況者。

先輩実況者(しんすけ)に「ゲームと実況以外に(人生の楽しみが)無い」と言われるほどの実況フリークであり、その分析力と妥協を許さない姿勢で動画全体のクオリティを高めている。金字塔の異名は伊達ではなく、豊富な語彙力と知識から繰り出されるトークと斜め上の動画センスはグループ実況においても発揮されている。*2

 

shu3

実況歴が他のメンバーと比べて浅く結成時の知名度は低かったものの、常軌を逸したやりこみ動画で知る人ぞ知る存在だった「やりこみのやべー奴」。一本のシリーズ動画を作成するための準備に半年掛けるのはザラであり、腱鞘炎寸前になるまでのリセマラなど視聴者の背筋を凍りつかせている。

オリジナルMOD制作でも知られており、シリコンバレー企業からヘッドハンティングされるほどのプログラミング技術を持つ。そのスキルは配信や動画制作にも生かされており、メンバーのアイデアを形にする縁の下の力持ち的存在。笑いの沸点が低く極度のゲラであり、グループのムードメーカーとなる太鼓持ち的存在でもある。

 

■最後に

ようやくですが、入門編となるような動画を紹介しておきます。

■古き良きニコニコのクローズドな笑いを思い出す動画

 

■4人の個性がそれぞれ発揮されていたほのぼのサイコパス(?)動画

 

グループに興味を持ったら、ぜひ個人動画のほうもおすすめします。。

ジャック・オ・蘭たん 

 

すぎる

 
hacchi

 
shu3 

 

いやもうhacchiもしんすけもルーツも実況に帰ってきたからみんな見ろって、と言いたいだけなんですほんと。誰もわかってくれないかもしれないけど。

*1:僕の周りの人間をサンプルとするには偏り過ぎている感は否めないけれど

*2:チャンネル会員になると印象が大きく変わります。いろいろな意味で

第二十八回文学フリマ東京に出展します。

開催日 2019年5月6日(月・祝)
開催時間 11:00~17:00
会場 東京流通センター 第一展示場 ※第二展示場から変更
ブース シ-24

 

一年ぶりに文学フリマ東京に参加します。

すみません、新刊間に合いませんでした。面白いものを書いている手応えはあるので、次には出します。今回は既刊のみでご容赦ください。

昨年度は大阪、京都と、東京以外の文学フリマに初めて参加しましたが、やはり僕にとっての「文学フリマ」は東京のイメージが強いので楽しみです。たくさんの人に僕の本が届くことを祈りつつ。

 

 


CM わたしの庭の惑星〜こどもの国

 


短編集『わたしの庭の惑星』CM ショートバージョン

 


短編集『わたしの庭の惑星』CM 第二弾